大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)3183号 判決

被告人 朴鐘晋

〔抄 録〕

控訴趣意第二、について。

原判決の引用する原審証人小口まさ子の原審公判廷における供述、原審検証調書によると、株式会社十字屋原町田支店は東京都南多摩郡町田町原町田の小田急電鉄線新原町田駅前を東西に走る巾員約七米の道路に面し同駅の西方約七〇〇米の地点に在る間口四・五米、奥行約一三・五米の平家建矩形の店舗で、その内部には中央の矩形の陳列台の両側に入口があり、入口から通路が奥に直通し、奥の北東部にも陳列台があつて、客は店舗内の一方の入口から入つて陳列台に沿いつつ店内を一巡して他方の入口から出ることのできる状態になつているのであるが、被告人が原判示日他の三名と共に四名で同店に来た際には居合わせた店員六名のうち四名は店舗の入口附近に、一名は中央より稍奥に、店員小口まさ子は奥に居て、それぞれ売場を担当していたものであるところ、被告人は小口まさ子が、被告人と同行して来た客と応待している隙に乗じ奥の陳列台に陳列してあつた紳士服地の中から捲いてあるウーステッド合計約一〇、五ヤールを抜き取りこれを自己の着用していたスプリングコートの内側、左脇に入れて隠匿したが偶々その時右小口まさ子にこれを発見されたことを認めることができるのである。このように被告人が陳列中の商品である紳士服地を陳列台から抜き取り自己の着用していたスプリングコート内側に入れ隠匿した所為は、店舖の構造状態が前記のとおりであり、且つ数名の店員が監視している状況の下で行なわれたとしても、被告人が右紳士服地を自己の支配内に置いたものと認めなければならない。そして窃盗罪は不法領得の意思を以て事実上他人の支配内に存する財物を自己の支配内に移したときに既遂となり、犯人がこれを自由に処分し得べき安全な位置に置いたときに始めて既遂となるものではないのであるから、被告人が右のようにスプリングコート内側に商品を隠匿した所為を店員に発見され、店員の警戒を離脱しなかつたとしても被告人の所為を窃盗既遂に問擬するに妨げないのである。しからば原判決が被告人の所為を窃盗未遂としないで窃盗既遂としていることは相当であり、原判決には所論のような法令適用の誤はないから論旨は理由がない。

(近藤 吉田作 山岸)

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